2011年9月20日火曜日

【創作理論】ストーリー作品の作り方①


ここでは、ストーリー作品の創作法について解説する。

ストーリー作品とは、小説、映画、漫画など、ストーリーを伴う創作物のことである。
ストーリー作品を作るクリエイターの悩み事は、「着想はあるが、内容が具体的に決まらない」「何となくイメージはあるが、ストーリーが完成しない」といったものが多いのではないだろうか。ここでは、それらを解決する2つの方法論、

①着想を広げる方法論、イメージエンジン
②ストーリーの構造を決定する方法論、ドライバー理論

について解説する。イメージエンジンについては、ストーリー作品以外にも応用可能な部分があるので、ストーリー作品以外のクリエイターにも読んでいただきたい。

0.創作の手順

ストーリー作品の創作には主に次のような段階がある。

1. 着想(企画、タイトル、ジャンルなど)
2. シーン、設定、登場人物(イメージボード、アイデアなど)
3. 大まかなストーリー(あらすじ、プロットなど)
4. ストーリーと演出(脚本、ネーム、コンテなど)
5. 仕上げ

これらの段階を止まることなく、自由に闊歩することができれば、あなたの創作ペースは格段に上がるだろう。多作であるということはクリエイターのとっては強みであり、読者、視聴者にとっても望ましいことである。

1.イメージエンジン

まず、あなたには何らかの非常にわずかな着想があると仮定しよう。それは、タイトルでもいいし、コンセプトや、キャラクターでもいい。それは全くの思いつきや依頼であって、それをストーリー構築法の中では直観と意図(Intution & Intension)と呼んだ。

さて、この着想をどうやって拡張するかというのが、創作の初期段階における主要問題である。

脳内のネットワークで考えると、着想というのはネットワーク上の1点であり、我々の目的は、その脳内ネットワークの中から重要な組み合わせを選び出すことである。

これを、もし計算機にやらせるのであれば、それは近似解発見のアルゴリズムや、人工知能の問題になるだろうが、私たちが必要としているのはあくまで人間が思考する場合の方法論であり、計算機をうまく働かせる方法論ではない。

さらに、私たちが計算機と違うのは、私たちにはモチベーションが必要だということだ。ある人はその人自身が重要だと思うことしかやりたくないし、その行為自体が楽しくなければパフォーマンスは続かない。

そこで、私たちがある着想を拡張する際には、その拡張がその人自身にとって重要であり、臨場感のあるものである必要がある。

では、あなたにとって重要で、臨場感のあるものとは何だろうか。すなわちそれはあなたの情動記憶に基づくものである。

(情動記憶とは、何らかの情動と関連付けられた記憶のことである。我々の脳にはRASと呼ばれる情報のフィルター機能があり、そのフィルターは情動記憶によって調節されていると言われている。我々が重要だと感じるものと、情動記憶の関係は深い。また最新の認知科学によれば我々の認識は記憶によって成り立っており、豊かな記憶に基づくものほど、臨場感は高い)

イメージエンジンの方法論は、この情動に注目し、情動記憶のネットワークを使って、着想を拡張するものである。

では具体的に、その方法論について述べていこう。

まず、着想などあるイメージに対してあなたが感じる情動に注目しよう。

元になるものは、言葉でもいいし、絵でも、頭の中のイメージでも、アイデアでも構わない。拡張したい対象について、それを見たり、想起した時に感じる情動に注目する。感じる情動は、「かわいい」とか「つまらない」とか「ダサい」、「この部分が気に食わない」など何でも良い。情動ではないが、「何も感じない」というのでも構わない。

これらの情動はあなたの情動記憶を介し、あなたがイメージに対して無意識に想起させる情動である。(「何も感じない」であれば、あなたにとって重要ではないということだ)

このような、イメージに対してそれを見た人が感じる情動の列をエモーショナルライン(Emotional line)と呼ぶことにする。

エモーショナルラインは、そこに描かれているキャラクターがどう思っているかではなく、あるイメージを見た人がどう感じるかであり、あくまで作品世界の外側の観測者がどう感じるかというものである。エモーショナルラインは当然、見る人によって異なる。

着想を拡張するには、これらのイメージと情動について、「そのイメージがどう変われば、どう感じるか?」ということに注目する。そうすると、別のイメージと共に、それに付随する情動が現れる。

例えば、「ウェイトレスが水を持ってくる」シーンを考えよう。さて、このイメージについて何か感じるだろうか。ここでは「何も感じない」からスタートしてみよう。例えば、

「キンキンに冷えていたら」→「おいしそう!」
「ウェイトレスがごつかったら」→「お前女じゃねえだろ!」
「いきなり水をぶっ掛けられたら」→「びびる」
「すっころぶ」→「ぱ、パンツが・・・」
「注文した旦那がすごいかっこ良かったら」→「かっこいい!」

などの拡張が出来るだろう。ポイントは後半の情動である。作者のエモーショナルラインは「何も感じない」から実に様々なものに変わる。ここで情動が無ければ、拡張するモチベーションは生まれない。「ウェイトレスが水を持ってくる」シーンを見たときに、「水がオレンジジュースだったら」とか「ウェイトレスがウェイターだったら」とか「壁の色がベージュだったら」とか面白くも何ともないシチュエーションを想像する気になるだろうか?また、そのアイデアに実用性があるだろうか?

ここでは、シーンについて考えたが、イメージ自体はタイトルや主人公、作品世界の概念など何でもよい。

これが着想の拡張である。重要なのは、ある着想やイメージについて、出来るだけエモーショナルラインを意識し情動的に考えることである。

このように、情動を用いる利点は他にもある。強い情動を感じることは脳内にドーパミンを放出させる。(特にうれしい、楽しい、気持ちいいなど正の情動の方が多く出るとされている。)
創作におけるイメージの操作には高い抽象思考が必要であり、それを促すには前頭前野にドーパミンを流すことが重要である。ドーパミンは快楽物質であると同時に
思考を促す脳内物質でもあり、抽象思考することによっても分泌される。このようなドーパミンによるプライミングでさらに、前頭前野は活性化されイメージ操作がし易くなる。

このような、イメージ→情動→(情動記憶)→別のイメージ→別の情動(+ドーパミン)の循環を回すことによって創作におけるイメージをどんどん作り出すことをイメージエンジン(Image Engine)と呼ぶことにする。

拡張したい着想について、このイメージエンジンを使うことによって、作品世界についてのアイデア、シーン、設定、キャラクターが構築される。
着想が十分に拡張され、作品世界がある程度固まってきたら、次は大まかなストーリーを決定する工程へと移る。


[イメージエンジンの使い方まとめ]

①リラックスする。
②タイトルなどのキーワード、資料などからイメージを想起する
③そのイメージについて、自分が感じる情動に注目する
④そのイメージと情動について、それがどうなったらどう感じるかに注目する
⑤新たに得られたイメージについて③、④を繰り返す。


2.ビジョン

イメージエンジンによって着想を拡張していくと、いくつかの新しいイメージが得られ、次第に作品世界の構成要素が増えていく。

ある作品の構成要素には、大まかにシーン(scene)、設定(setting)、登場人物(character)などがある。これらをまとめてビジョン(Visions)と呼ぶことにしよう。
イメージエンジンを動かして得られるのは基本的に視覚的イメージであり、シーンとの結びつきが一番強い。イメージエンジンによってある程度のシーンが得られると、それに伴い設定や登場人物が決まってくる。

これらの構成要素が増えてくると次第に、構成要素に還元できない作品世界の全体イメージ(ゲシュタルト)が出来てくる。トーンと言っても良い。この全体イメージが出来上がったら、次の大まかなストーリーの決定に移る。だが、その前に少し補足をしておこう。

もともと、設定などは情動を伴いにくい。例えばある国の歴史、産業、キャラクターの住所や年齢をどうしても決めたい場合、それに情動を感じられるだろうか。

もし、このような情動を伴いにくいビジョンを拡張する必要がある場合には、それらを視覚イメージ化することが望ましい。それが提示されたときにどう感じるかに注目し、エモーショナルラインを形成する。かつて高い文明があった国とか、産業は綿織物とか言われても、普通は何も感じないだろう。

そこで例えば、どのような遺産や地形が残っているとどう感じるか(壮大だ!とか焼け野原だな…とか)、どのような生産現場だとどう感じるか(活気にあふれている!とかのどかだなあ…とか)、どんなところに住んでいるとどう感じるか(金持ちすぎる!とか貧乏だなあ(泣)とか)、何歳だと言われるとどう感じるか(若い!とか詐欺!とか)といった具合に情動を付加していく。

このように、設定に関しても視覚イメージ化することでイメージエンジンを使うことが容易になる。ただし、すべての構成要素がイメージエンジンによって構成されるわけではなく、辻褄合わせに発生する設定などもある。特に設定には辻褄合わせが多く含まれる。

【創作理論】ストーリー作品の作り方②につづく