2011年9月20日火曜日

【創作理論】ストーリー作品の作り方②

【創作理論】ストーリー作品の作り方①の続き。
大まかなストーリーを決定するドライバー理論について説明する。

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3.ドライバー理論

ある程度、ビジョンが形成され、作品の全体イメージが出来ていたら、大まかなストーリーを決定する。

ビジョンからストーリーを作るのが、創作中盤においての山場となる。

ストーリーに十分な構造を持たせる為には、全体像から各シーンが整合的に作られる必要がある。もし、ストーリーの全体像が分からなければ、各シーンの演出方針や、適当な描写の長さが決まらず、メリハリのあるストーリー、演出にはならないし、後半に生きてくる伏線を前半に入れることが出来ない。

ストーリーはビジョンに比べて、理性的なものであり、時間、空間、因果の整合性を持ち、さらに起承転結などの構造がなければ面白くない。

これらを整合的に作るための方法論が、ドライバー理論である。

簡単に言うとドライバーは、その話が「どんなストーリーなのか」を端的に表すものである。例えば、「アンパンマンがバイキンマンを倒す」とか、「神隠しにあった女の子が両親を救う」とかである。

補足---------------------------------------------

ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言う。

ドライバーは次の5種類に分類され、
・悪(E,evil driver)と善(G,good driver)
・愛(夢)(L,love driver)と失敗(F,fail driver)
・提示(P,presentation driver)

それらの組み合わせによって主に
・悪が善によって倒される。または倒されようとする。(E-G)
・愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。(L-F)
・愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。(L)
・設定を説明する。(P)
といった話を展開する。
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ドライバー理論についての詳細は、前記事ドライバー理論を見て欲しい。ここでは、その細部は説明せずに、本題に入ろうと思う。

あなたが、ある作品について、あるビジョンを持っているとき、あなたの想像力をさらに掻き立て、ストーリーを完結させるためには、分析とは別の特殊なストーリーを完結させうる構造、つまりドライバーを見つける必要がある。

あなたがもし、ストーリーを完結することが出来ないとすれば、それはドライバーが不明であるか、不満である可能性が高い。

創作において重要なことは、誰がドライバーで、そのドライバータイプが何であるかを分析することではなく、あなたが描くのに足りうると思うドライバーの中身は何でそれをつかさどる登場人物は誰かということだ。

そのようなドライバーを見つけるには、やはり、イメージエンジンを使う。

まずは、ビジョンの中から、今あるドライバーを探そう。分析的に、このストーリーは何の話なのか?を考える。
ここで、出てくるのは「分析的」つまり、固定概念や、よくあるパターンの中から選び出された、創造性の低い、つまらないものである可能性が高い。例えば「AがBを倒す」とか「AとBがくっつく」かもしれない。

次に、イメージエンジンの手順に従い、それに伴う情動に注目する。それは「腑に落ちない」とか「ありがち過ぎる」とか「つまらない」、あるいは「何も感じない」かもしれない。

そして、次に、それがどう変わったら、どう感じるかを想像する。目の前にあるドライバーが別のドライバーに変わったら、あなたはどう感じるだろうか。
これは、読者が持っている先入観に対して、別のストーリーを提示することにも対応する。意外な展開とは意外なドライバーの提示なのである。

さらに、新しく出てきたドライバーについて、それがどう変わったらどう感じるかを想像し、新たなドライバーを探す。このイメージエンジンのプロセスを通じて、我々は作るのに足りうるドライバーを発見する。

このようなプロセスを通して、作品には複数のドライバーが実装され多面的な側面が感じられるようになる。そのようなドライバーの中で中心に据えるのにふさわしいドライバーがそのストーリーの主要ドライバーである。

十分なドライバーを見つけるコツは、得られているドライバーに不満を持ち、ドライバーについて妥協しないことである。
このドライバーが出来た瞬間にストーリーはほぼ完成すると言っても良い。すべてのシーンについてどう持っていけばいいかが明確になるからである。

一般に知られている作品の製作プロセスは不明だが、推理ものや勧善懲悪ものを除けば、多くの作品でメインストーリーは予測しにくい意外なドライバーである。
例えば「トトロ」についての設定資料などを見ると、メイが行方不明になるというストーリー展開は後付けの可能性が高い。「トトロと仲良くなりました」では視聴者は拍子抜けしてしまうだろう。「トトロ」という必然性が無くとも「メイが行方不明になるがトトロが助けてくれて無事見つかる(E-G)」というドライバーが必要なのだ。

アニメ版の「時をかける少女」ではどうだろうか。主人公はタイムリープする能力を得てしまった少女だが、そのメインドライバーは「未来から来た少年とお別れする(L-F)」というものだ(それがきっかけでやることを見つけるのでLFLとも言える)。しかし、同時に「友人が電車事故に巻き込まれるのを阻止する(E-G)」や、「あの絵が見たいけど見れなかった(L-F)」、「好きな友達に告白したがスルーされる(L-F)」、「好きな先輩に思いを伝える(L)」などの別のドライバーも持つ。このように登場人物の様々なドライバーがストーリーを多面的で深いものにしている。きっと原作者はメインドライバーの切なさがメインに据えるのに足りうると判断したのだろう。

創作プロセスが分かっているので、依然書いた「マーメイ丼」を例に挙げると、初めのドライバーは「人魚の肉を食べようとする奴をマーメイ丼で倒す」であった。しかし、敵を倒すはありきたりだし、倒し方も腑に落ちない、感動も無い。そこで「マーメイ丼を通じて、家族の絆が強まり、お祭りも盛り上がる」というようなドライバーに変わった。しかし、これでも、まだ「マーメイ丼を通じて」の点がまったく不明である。そこで最終的には、メインドライバーは「マーメイ丼で友達を救う(E-G)」、サブドライバーは「王様がマーメイ丼を通じて昔のことを思い出す(L)」「マーメイドンでお祭りが盛り上がる(E-G)」というドライバーになった。敵となる王様達が単なる悪い奴ではなく、最後はみんなでお祭りというのが描くに足りうるドライバーになった理由だ。解析的にはE-L-G(L)-Gである。

注意すべきなのは、EGLFのドライバーの組み合わせにはオリジナリティの余地が無いと言うことだ。ドライバーを考える場合、それがどのドライバータイプに分類されるかではなく、「何が」ドライバーで、それをつかさどるキャラクターは誰なのかということだ。ドライバーの具体的部分に創造性は宿ることになる。

このような描くのに足りうると感じるドライバーが見つかれば、つぎは具体的にストーリーを書いて演出を決定していくことになる。この段階ではストーリーに関して悩むことは無いはずだ。もし、あるとすればドライバーを変更するかどうかだが、十分に満足のいくドライバーで始めたなら、どちらにせよいい結果になるだろう。

後は各媒体に応じた演出、仕上げが待っている。その技術は各媒体でかなり異なるが、ここでもやはりイメージエンジンを使っていけば、解決できるだろう。


オワリ